2年間くらい本棚で眠っていた本ですが、気になったので読んでみました。
リチャード・クー氏、以前はよくテレビに出ていた野村総研の研究員です。台湾にルーツを持つ方ですが、神戸生まれです。純粋な日本人以上に日本を大事に思っておられる印象です。
彼の意見は、本人の提唱する「バランスシート不況」という一言につきます。バブル崩壊後の日本がどうして長い長い経済不振を経なければならなかったのかという理由を、下記のように説明しています。(以下の文章は全て私が自分の理解に基づいて書きなおしたものです)
●1990年頃のバブル崩壊で、株や土地などの資産価格が急落した。その規模は日本のGDPの3年分にもあたる1500兆円というものであった。
●株や不動産を所有していた多くの民間企業では、資産価値が減少し、バランスシートが傷ついた。そのため、その分だけ借入金を返済する必要に迫られた。
●当時の日本の民間企業の多くは、本業での収益は順調であったので、毎年上がってくるキャッシュ・フローを使って、この借入金の返済を続けた。
●このステップが10年くらい続いた。この間、民間企業は借入金の返済の分だけ投資を控えたため、その分だけ日本経済では総需要が減少した。
●この間、日本市場では誰もお金を借りたいと思う企業がいなかったので、一般的な経済学で有効とされる「金融緩和政策」をいくら取っても効果が出ない状態が続いた。ゼロ金利にしても誰もお金を借りようとしなかった。
●一方で有効だったのは「財政政策」だった。莫大な国債発行残高を積み上げたものの、毎年実施されていた景気対策が、民間企業の需要減少の穴を埋めていたので、日本はGDPの大きな下落を招くことがなく、なんとか維持することができた。
●2007年、ようやく、日本の多くの民間企業はこの借入金の返済のステップを終わることができたので、今度こそ、本物の景気回復が起こるであろう。
そして、クー氏は、このような莫大な規模の資産価格暴落の後においては、従来の経済学が通用しなくなる時期があり、今までの経済学ではない、新たな経済学が必要だと主張しています。氏は、その時期のことを「陰」の局面と呼び、数十年に一度のバブル崩壊の後には今までの常識とは異なる経済政策が必要だと主張しています。そして、陰の局面の反対側を「陽」の局面と呼んでいるわけです。
クー氏の主張には、かなり同意できる部分があります。
ただし、当時の状況を思い出しますと、この傷ついたバランスシートを最も大規模に処理していたのが金融機関であり、毎年何兆円も業務純利益を上げながら、不良債権の処理に費やしていたことが思い出されます。クー氏は(金融機関以外の)民間企業の話を中心に話を展開し、この時期の経済不調は金融機関のせいではなかったと主張しておられますが、この金融機関の不良債権処理に時間がかかっていたことも、陰の経済学のひとつの要因として盛りこんでおくべきではないかなと思います。
それにしても、非常に興味深い論説です。
2011年の今、今のデフレ経済から脱出するために、日銀はもっと金融緩和をするべきだという主張があります。これに対する氏の意見を是非聞いてみたいです。
※というわけで、もうちょっと最近の本も購入していますので、よい内容がありましたら、ご紹介したいと思います。
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